AIエージェントがコードを書いてくれる時代が来ています。では、ソフトウェアエンジニアに最後まで残る価値とは何でしょうか。Kent C. Dodds氏の「The Last Software Engineer」という記事が、この問いに正面から向き合っていて、とても考えさせられる内容だったので紹介したいと思います。

AIが「実装」を飲み込んでいく

Dodds氏は10年以上にわたり、React やテストの実装スキルを教えてきた教育者です。ところが、AIコーディングエージェントの進化によって「実装」そのものの希少性が下がってきていると感じているそうです。

1年前には想像もできなかったレベルでエージェントが実装をこなすようになり、1年後を予測する自信もなくなったと率直に語っています。そこで氏が考えたのは「ソフトウェアエンジニアリングが終わった後に何をするか」ではなく、「終わる直前まで価値があるものは何か」という問いでした。

弓矢のたとえが示す変化

氏は面白いたとえを使っています。これまでのエンジニアは弓の名手でした。風を読み、的を正確に射抜く技術が評価されていたんですよね。でもAIという「ホーミング矢」が登場すると、矢は勝手に的を見つけてくれるようになります。

すると大事になるのは「どの的を狙うべきか」の選択です。撃つコストが下がれば下がるほど、的の選び方がより重要になるという指摘は、私もまさにその通りだと思います。

「何を作れるか」より「何を作るべきか」

氏が最後のエンジニアに残る価値として挙げたのは「判断力」です。具体的には3つのポイントがあります。

1つ目は、shouldの難しさです。AIは「こんなものが作れる」という選択肢は出せますが、「この状況でこれを作るべきか」の判断には、ユーザーの期待、ビジネスモデル、ブランドへの信頼、法的リスクなど、プロンプトに載せきれない文脈が必要です。

2つ目は、説明責任の問題です。ある指標を改善する判断が別の指標を犠牲にすることもあります。間違いのコストを負わないシステムは、責任あるオーナーなら受け入れないような判断を平気で推奨できてしまいます。

3つ目は、プロダクトエンジニアリングという概念です。これは実装の判断をプロダクトの結果に結びつける技術のことで、「何が便利か」だけでなく「既存システムの形状、変更コスト、実装リスク、ユーザー体験を踏まえて何が便利か」を考える力です。

考えてみると、これは昔から同じだった

私がこの記事で一番印象的だったのは、最後のほうにある一文です。「もしAIが実装を自動化できなかったとしても、プロダクトエンジニアリングは優れたエンジニアとただ生産的なエンジニアを分ける技術であることに変わりはない」と書かれています。

つまりこれは、AI時代に突然求められるようになった新しいスキルではないんですよね。昔から一流のエンジニアが持っていた力が、AIの登場によってより明確に浮き彫りになっただけだと思います。

コードを書くスピードで勝負するのではなく、「このソフトウェアは作る価値があるのか」を見極める目を養うこと。それが、これからのエンジニアにとって最も確かな投資なのかもしれません。

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