AIエージェントがコードを大量に書いてくれる時代になって、私自身「もう全部読まなくていいんじゃないか」と思う瞬間が増えてきました。そんな中、Notionで働くGeoffrey Litt氏がAI Engineer会議で発表した「Understanding is the new bottleneck」というトークが話題になっているんですよね。逆張りに見えて実は本質的な主張で、私も深く共感したので今日はそれを紹介させてください。

なぜ「理解」が必要なのか

多くの人はコードを理解する理由を「検証のため」と考えます。エージェントが書いたものが正しいかチェックする、というやつです。でもLitt氏はここで面白い指摘をします。エージェントは自分で自分の仕事を検証するのが日に日にうまくなっている、と。じゃあ人間は何のために理解するんでしょうか。

彼の答えは「参加のため」だそうです。プロジェクトはひとつのループで終わりません。次のアイデアを出し、方向を決め、システムを進化させていくのは何度も繰り返される営みです。理解が浅ければ、私たちはただエージェントの成果物に「承認」「却下」を押すだけの受動的な存在になってしまう。これをMargaret Storey氏やSimon Willison氏は「認知的負債(cognitive debt)」と呼んでいます。技術的負債と同じで、短期は逃げ切れても後で必ず跳ね返ってくるんですよね。

教育から借りてきた3つの手法

Litt氏は教育学から3つの手法を輸入しています。

ひとつ目は「説明(Explanation)」。/explain-diffというスキルを毎日使っていて、変更差分をHTMLやNotionページとして構造化された解説に変換するそうです。背景知識から始め、直感を作ってからコードに入る「literate diff」形式で、末尾には5問の理解度クイズが埋め込まれる。「クイズに通らなければ他人に送らない」というルールが、AIの速度と人間の理解速度のギャップを埋める調速機として働きます。

ふたつ目は「ミクロ世界(Micro-worlds)」。教育者Seymour Papertの「数学を学びたければMathlandに住め」という思想の応用です。彼は自作のPrologインタプリタを理解するためにデバッガをエージェントに作らせ、ステップ実行しながら思考を追跡したそうです。フレームワーク移行時には、旧サイトと新サイトを並べたコマンドセンター風UIをClaudeに作らせて、自分の手で1歩ずつ移行を進めた。エージェントに丸投げするのではなく、理解を育てるための道具をエージェントに作らせる。この転換は大きな示唆だと思います。

3つ目は「共有空間(Shared spaces)」。チームで同じメンタルモデルを持てば、共通語彙で発想を交わせる。NotionではClaudeやCursorのエージェントをページ上で走らせて、計画自体を協働編集の対象にしているそうです。

拡張するためのAI

Litt氏はアラン・ケイの50年前のビジョンを引きます。コンピュータは本より優れた「思考のメディア」だ、というやつです。AIが加わった今、私たちに問われているのはループから抜け出すことではなく、より深くループに入る道具を作ることなんですよね。「automate(自動化)」ではなく「augment(拡張)」する。これはコード以外にも通じる話で、私も明日からのAIの使い方を静かに書き換えたいと思います。

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